
基板間の位置ズレを吸収し、製品の信頼性を飛躍的に高める「フローティングコネクタ」。自動実装の効率化や設計自由度の向上に不可欠なキーコンポーネントですが、その選定には可動量やピッチ、高速伝送対応など多くの知見が求められます。また、コネクタの性能を根幹から支える微細なコンタクト端子の加工には、強度とバネ性の両立といった、極めて高度な技術課題が存在することも事実です。
本記事では、フローティングコネクタの基本となる構造や原理、ニーズの高まる背景から、具体的な選定ポイント、そして高性能化を阻む加工上の課題までを網羅的に解説いたします。さらに、それらの課題を克服するナカトガワ技研独自のフローティングコネクタ端子の順送プレス加工技術と、実際の加工事例をご紹介いたします。
コネクタとは?
コネクタとは、回路や部品を電気信号で接続するために使用される部品のことです。コネクタは、様々な電子機器や自動車などの内部に組み込まれています。
一般的には、オスと呼ばれるプラグ側と、メスと呼ばれるレセプタクル側の2つの部分から構成されています。これらが対となって、電気信号をつなぐ、切り離すといった動作を可能にします。
>>プレスメーカーにコネクタ端子の受託加工を依頼するポイント
コネクタの構成
コネクタを構成する部品は、金属部分と、それ以外の部分に分類されます。金属部分は、電気信号を通す役割を担います。それ以外の部分は、樹脂やプラスチックで作られており、金属部分を覆っています。
金属部分には、様々な種類があり、主に以下のような呼ばれ方をしております。
・端子
・ピン
・ターミナル
・コンタクト
コネクタの種類
コネクタには様々な種類があります。ここでは、過去に当サイトにてご紹介したコネクタ端子の一例をカテゴリ別にご紹介いたします。
連続端子
連続端子とは、順送プレス後に切断されずに母材に繋がれた状態の端子です。リールに巻かれたフープ材が順送プレスに入り、プレス工程を経たのちにそれぞれの端子に打ち抜かれます。連続端子は端子が個片に切断されずに残っている状態のものを指しており、その後の工程で自動機を含めた生産に活用されます。
>>連続端子におけるキャンバー・ツイストとは?対策方法を解説!
圧着端子
圧着端子は、電線やケーブルを接続するための一種の接続部品で、英語では”crimp terminal”と呼ばれます。通常、圧着工具を使用して端子の金属部分を圧縮し、電線と接続します。圧着端子は電子機器の基板やコネクタ、自動車の配線や電装部品の接続など、さまざまな分野で使用されます。圧着端子には、バレル形状によってクローズドバレル端子とオープンバレル端子があります。
プレスフィット端子
プレスフィット端子は、プレスフィットピンやプレスフィットコネクタとも呼ばれ、プリント基盤にある基準穴と副基準穴に圧入し、プレスフィット部の弾性変形によって発生する復元力によって接触通電を可能にしている端子のことです。
また、プレスフィット端子の形状はニードルアイ形状のものが多くあり、その他にもU型、H型、M型など様々な形状が存在します。
>>はんだ接続からプレスフィット端子に変更して製品への熱影響削減!
高耐熱コネクタ
高耐熱コネクタは、高温環境下での使用に耐えるために設計されたコネクタです。高耐熱コネクタは、コネクタの種類や用途に応じて、高耐熱コネクタの定義や仕様、その耐熱性は大きく異なります。
例えば、ヒータや加熱炉など、200℃以上の高温環境で使用されるコネクタでは、セラミック系絶縁材や耐熱性の高いプラスチック(PEEKなど)が使用され、金属部分にはステンレスなどの高耐熱合金が採用されます。
一方、汎用機内配線用のコネクタでは、60℃定格が標準となり、80℃や105℃の製品が「高耐熱」として扱われます。これらは「ナイロンコネクタ」とも呼ばれ、旧来の材料をベースにした設計が多いです。このように、コネクタの種類によって耐熱性の基準が大きく異なります。
機器内で使用される基板接続用のコネクタでは、通常80℃が汎用的な定格温度ですが、より高い耐熱性が求められるようになり、125℃対応品が「高耐熱コネクタ」として扱われることが一般的です。特に車載部品や電子機器の高機能化に伴う発熱の増加に対応するため、125℃対応のコネクタは今後さらに需要が高まると考えられます。
また高耐熱コネクタは、連続使用温度が高いものが一般的ですが、実装プロセスなどで短期間に高温にさらされることもあります。そのため、短期耐熱と長期耐熱の双方に対する耐性が求められます。
>>高耐熱コネクタとは?高耐熱コネクタに求められる機能とプレス加工技術について解説!
0.64コネクタ端子
0.64㎜という数字ですが、非常にキリの悪い数字に感じるかもしれません。しかしこれは、海外規格によるものであり、それを変換した結果になります。
自動車向けでは海外規格でインチのものが採用されているため、日本での製造の際はミリに変換をして考えなくてはなりません。コネクタの0.64㎜というのは0.25インチ(1/4インチ)を意味するもので、実際に計算してみると 0.25 inch ≒ 0.64mm となることがわかります。
そのため、インチを基準としたサイズの0.64㎜の規格が良く見られます。一般的には1.0㎜以下の板厚が薄板とされているので、板厚0.64㎜のコネクタは薄板プレスによる製品と言えます。
フローティングコネクタとは?

フローティングコネクタとは、主に基板対基板(Board to Board / BtoB)接続に用いられる電気コネクタの一種です。その最大の特長は、コネクタの嵌合(かんごう)時に発生する、基板間の位置ズレや累積公差を吸収するための「フローティング(浮動)機構」を内部に備えている点にあります。この機構により、コネクタのオス側(プラグ)とメス側(リセプタクル)が嵌合軸に対して垂直なX-Y方向、製品によってはZ方向にも一定量可動し、取り付け時のアライメント誤差を補正します。
従来のリジッド(固定)タイプのコネクタでは、基板の製造公差や部品実装時のわずかな位置ズレが、コネクタ本体や基板のはんだ接合部に直接的なストレスとして負荷を与えていました。このストレスは、接触信頼性の低下や、長期使用におけるはんだクラック(ひび割れ)の原因となり、製品の故障に繋がる重大なリスク要因でした。特に、1枚の基板上に複数のコネクタを配置する場合、各コネクタの位置ズレが累積し、嵌合そのものが困難になるという課題も存在しました。
フローティングコネクタは、内部のコンタクト(端子)やハウジングがバネのような構造を持つことで、これらの応力を効果的に緩和・吸収します。その結果、リジッドコネクタでは対応が難しかった設計・製造上の課題を解決し、最終製品の品質と信頼性を飛躍的に向上させることが可能です。
この優れた機能性から、フローティングコネクタは「可動コネクタ」とも呼称され、今日の高度な電子機器における設計自由度の向上、製造プロセスにおける自動実装の効率化、そして市場における製品の長期信頼性の確保に不可欠なキーコンポーネントとして、その重要性を増しています。
なぜフローティングコネクタが必要とされるのか?高まるニーズの背景
フローティングコネクタが持つ独自の位置ズレ吸収機能は、現代の電子機器開発が直面する複数の技術的課題に対する、極めて有効な解決策となります。製品の多機能化・高密度化が進む中で、その必要性はかつてないほど高まっています。ここでは、そのニーズが高まっている具体的な背景を、製造現場における「組立性」と、製品ライフサイクル全体における「信頼性」という2つの観点から掘り下げて解説します。
複数個使いや自動実装における組立性の向上
近年の電子機器は、信号の高速化や多機能化に伴い、基板間の接続点が増加する傾向にあります。これにより、1つの基板上に複数の基板対基板コネクタを配置する「複数個使い」の設計が一般化しています。しかし、リジッドコネクタを用いた複数個使いでは、各コネクタの実装位置に生じるμm単位の公差が累積し、最後のコネクタを嵌合する際には大きな応力がかかったり、最悪の場合、物理的に嵌合が不可能になったりするという深刻な問題が生じます。
この問題は、生産効率の向上に不可欠なロボットによる自動実装ラインにおいて、より顕著になります。人の手であれば感覚的に微調整しながら嵌合させることも可能ですが、プログラム通りに動作する組立ロボットでは、この累積公差が嵌合エラーや設備の停止を引き起こし、タクトタイムの悪化や生産性の低下に直結します。
フローティングコネクタは、この累積公差を個々のコネクタが持つ可動域で分散・吸収するため、複数個使いのレイアウトであっても、ストレスのないスムーズな嵌合を実現します。これにより、組立ロボットとの高い親和性を発揮し、厳格なアライメント調整が不要となるため、自動実装ラインにおける生産性と組立品質の安定化に大きく貢献します。
はんだ接合部のクラック防止による信頼性向上
製品が市場に投入された後、長期間にわたって安定した性能を維持することは、メーカーの信頼を左右する重要な要素です。特に、自動車のECU(Electric Control Unit:車載電子制御装置)やインフォテインメント(情報娯楽)機器、工場のFA機器といった車載・産業分野の製品は、走行中や稼働中に絶えず振動や衝撃に晒されます。また、激しい温度変化による基板や部品の伸縮も避けられません。
こうした外部からの機械的ストレスや熱的ストレスは、リジッドコネクタの場合、その負荷がダイレクトにはんだ接合部へと集中します。この応力が繰り返し加わることで、はんだに微細なひび割れ(クラック)が発生し、時間と共にそれが進展することで、最終的には接続が途切れる「導通不良」に至ります。これは製品の致命的な故障原因となり、リコールなどの甚大な損害に繋がるリスクを孕んでいます。
フローティングコネクタの可動機構は、これらの応力を吸収・緩和するダンパーのような役割を果たします。外部からのストレスがコネクタ内部でいなされることで、はんだ接合部への負荷を劇的に軽減し、はんだクラックの発生を効果的に抑制します。この応力緩和機能により、過酷な環境下でも接触信頼性を長期にわたって維持することが可能となり、製品全体の高信頼性化に不可欠な技術として採用が拡大しています。
フローティングコネクタの主な用途と応用分野
フローティングコネクタは、その優れた位置ズレ吸収機能と高い接続信頼性から、機器内部で複数の基板が高密度に実装される、あらゆる電子機器で採用が拡大しています。特に、振動や衝撃、温度変化といった過酷な環境に晒される製品において、その価値は最大限に発揮されます。
車載機器
自動運転技術の進化を象徴する先進運転支援システム(ADAS)や、各種センサー、カメラモジュール、ミリ波レーダー、そして車の頭脳であるECU(Electric Control Unit)など、現代の自動車には無数の電子制御ユニットが搭載されています。走行中の絶え間ない振動から精密な電子回路を保護するため、フローティングコネクタは今や不可欠な部品です。カーナビやインフォテインメント(IVI)といった車室内機器でも広く使用されています。
産業機器・FA機器
工場の自動化を支えるPLC(プログラマブルロジックコントローラ)やCNC(コンピュータ数値制御)装置、サーボアンプ、各種センサーモジュール、産業用ロボットなど、24時間365日の連続稼働が求められる産業機器では、極めて高い信頼性が要求されます。フローティングコネクタは、設備の稼働中に発生する振動や衝撃による接続不良を防ぎ、安定した生産ラインの維持に貢献しています。
通信・事務・医療機器
その他にも、私たちの身の回りにある多くの機器でフローティングコネクタは活躍しています。
民生・事務機器: デジタルカメラ、プロジェクター、複合機(MFP)、ATM、LEDディスプレイ
医療機器: 超音波診断装置、CTスキャナ、内視鏡など、高い信頼性が人命に直結する分野
通信・社会インフラ: 基地局、サーバー、ルーター、スマートメーター
その他: 半導体製造装置、計測機器、放送機器など
このように、フローティングコネクタは、車載から産業、民生、医療に至るまで、現代社会を支える幅広い分野の最先端技術の根幹を担っています。
フローティングコネクタの構造と位置ズレ吸収の原理
フローティングコネクタが持つ優れた位置ズレ吸収機能は、その独自の内部構造によって実現されています。リジッドコネクタとは異なり、意図的に設けられた「可動域」が、外部からのストレスを吸収する重要な役割を担います。ここでは、フローティング機能を実現させている主要な構成部品と、それらがどのように連動して可動性を生み出しているのか、その基本的な原理について解説します。
フローティング機能を実現する主要部品(コンタクト、ハウジング等)
フローティングコネクタは、主に「コンタクト」と「ハウジング(インシュレータ)」という2つの主要部品から構成されています。これらの部品の形状や組み合わせが、フローティング機能の核心を成します。
コンタクト(端子)
電気信号の通り道となる金属部品です。一般的に、オス側はブレード状、メス側はバネ状の接点を持ち、このバネ構造が安定した接触圧を確保し、微細な振動や衝撃を吸収する役割も果たします。フローティングコネクタでは、このコンタクト自体が可動性を有する設計になっているものや、後述するハウジングの動きに追従する柔軟な構造になっているものがあります。材質には導電性とバネ性に優れた銅合金が、接点部には接触抵抗を下げ腐食を防ぐための金めっきが施されるのが一般的です。
ハウジング(インシュレータ)
多数のコンタクトを正しいピッチで保持し、隣接するコンタクト間を電気的に絶縁するための樹脂部品です。フローティングコネクタの構造的特徴は、このハウジングにあります。多くの製品では、コンタクトを直接保持する「インシュレータ部」と、基板に実装される「アウターハウジング部」という、いわば二重の構造を持っています。そして、このインシュレータ部がアウターハウジング部に対して、一定の範囲で動けるように設計されています。材質には、はんだリフロー時の高温に耐え、かつ寸法安定性に優れたLCP(液晶ポリマー)などの高機能樹脂が用いられます。
X・Y・Z各方向への可動を可能にする仕組み
フローティングコネクタの位置ズレ吸収は、前述のコンタクトとハウジングの連携によって実現されます。
最も基本的な機能であるX-Y方向(基板平面方向)の可動は、主にハウジングの二重構造によって生み出されます。嵌合時、基板間のズレに応じて、コネクタ内部のインシュレータ部がアウターハウジングに対して水平方向にスライドします。これにより、基板やはんだ接合部に無理な力がかかることなく、スムーズな嵌合が可能となります。
さらに高性能な製品では、Z方向(嵌合方向/基板間の高さ方向)への可動性も付与されています。これは、コンタクト自体のバネ性を利用したり、ハウジングに沈み込み構造を設けたりすることで実現され、嵌合時の衝撃緩和や、基板の反りによる高さ方向のズレを吸収する効果があります。
このX, Y, Z各方向への可動する量は「フローティング量」と呼ばれ、「X,Y方向:±0.5mm、Z方向:±0.3mm」のようにスペックとして定義されています。このフローティング量は、コネクタが吸収できる公差の最大値を示すため、製品選定における極めて重要な指標となります。これらの精密な機構が組み合わさることで、フローティングコネクタはミクロン単位の位置ズレを確実に吸収し、高い接続信頼性を実現しているのです。
フローティングコネクタを選定する上で考慮すべきポイント
フローティングコネクタは、その優れた機能性から多様な製品が市場に投入されています。しかし、その性能を最大限に引き出し、かつ自社の製品要求を満たす最適な一品を選定するためには、機械的な仕様から電気的な性能まで、複数の技術的要件を総合的に評価しなくてはなりません。ここでは、設計者がコネクタを選定する上で、特に考慮すべき重要なポイントを5つに分けて解説します。
可動量(フローティング量)
フローティング量は、そのコネクタが吸収できる位置ズレの最大値を示す、選定における最重要パラメータです。設計上想定される基板の製造公差、部品の実装公差、さらには筐体の熱変形によって生じるズレなどを事前に算出し、その累積値よりも十分に大きいフローティング量を持つ製品を選ぶ必要があります。ただし、一般的に可動量が大きい製品は物理的なサイズも大きくなる傾向があるため、許容される実装面積とのトレードオフを考慮した、適切な可動量の設定が求められます。X-Y方向(水平方向)とZ方向(高さ方向)で可動量が異なる製品も多いため、各方向で要求される仕様を個別に確認することが肝要です。
ピッチ(狭ピッチ化の動向)
ピッチとは、隣り合うコンタクト(端子)の中心間距離を指します。電子機器の小型化・高密度化という大きな潮流を受け、コネクタ市場では0.5mmピッチや0.4mmピッチといった「狭ピッチ」製品が主流となり、技術開発が活発に行われています。ピッチが狭いほど、基板上の占有面積を削減でき、製品の小型化に直接的に貢献します。しかし、一方で端子一本あたりの機械的強度が低下する、あるいは基板実装時のはんだ付けの難易度が上昇するといった側面も持ち合わせています。そのため、狭ピッチ製品を選定する際には、フローティング機能による組立性の向上効果が、より一層重要な意味を持ちます。
嵌合高さ(スタックハイト)と極数
嵌合高さ(スタックハイト)と極数(芯数)は、機器の基本設計に直結する最も基本的な仕様です。嵌合高さはコネクタを嵌合させた状態での基板間の距離を指し、機器内部の空冷設計や他の部品との物理的な干渉を避けるために、最適な高さを選ぶ必要があります。極数はコンタクトの総本数であり、接続に必要な信号線の数や電源ラインの数に基づいて決定されます。これらのパラメータは、製品のサイズやコストにも大きく影響するため、設計の初期段階で要件を明確にしておくことが重要です。
高速伝送への対応とインピーダンス
近年の電子機器では、扱うデータ量が爆発的に増加しており、コネクタはもはや単なる接続部品ではなく、高速な信号を劣化させずに伝える「伝送線路」として機能する必要があります。特に、PCIeやMIPIといった高速差動伝送規格を用いる場合、コネクタの「特性インピーダンス」が基板のインピーダンスと整合している(インピーダンスマッチング)ことが極めて重要になります。インピーダンスのミスマッチは信号の反射や波形の乱れを引き起こし、深刻な伝送エラーの原因となるため、対応する伝送規格とインピーダンス値(例:90Ω、100Ω)は必ず確認すべき項目です。
電源供給能力(大電流対応)
基板間接続では、信号の伝送だけでなく、一方の基板からもう一方の基板へ電力を供給する役割も担います。機器の高性能化に伴い消費電力も増大しており、コネクタには従来以上の大電流に対応できる能力が求められています。選定時には、必要な電流容量を満たす「定格電流」のスペックを確認する必要があります。定格を超えた電流は、コネクタの発熱や接点の劣化を招き、最悪の場合は焼損に至る危険性があります。この要求に応えるため、一般的な信号用コンタクトと、より太く多くの電流を流せる電源用コンタクトを組み合わせた「電源信号複合タイプ」の製品も多く、部品点数の削減や設計の簡素化に貢献します。
フローティングコネクタの高性能化を阻む、部品加工の課題
前述のような多様な要求に応える高性能なフローティングコネクタを開発・製造する上で、コネクタメーカーの設計・製造担当者は、日々さまざまな技術的課題に直面しています。特に、コネクタの性能を根幹から支える金属端子、すなわち「コンタクト」の加工においては、相反する複数の要求を同時に満たす必要があり、その製造難易度は年々高まる一方です。ここでは、その代表的な課題を3点挙げ、掘り下げていきます。
小型化・狭ピッチ化に伴う、端子(コンタクト)の加工難易度の上昇
コネクタの小型化・狭ピッチ化は、コンタクト自体の形状が極めて微細かつ薄くなることを意味します。例えば、0.4mmピッチのコネクタに使用されるコンタクトは、板厚が50µm(0.05mm)といった極薄の材料から作られることも珍しくありません。このような微細な部品を従来のプレス加工技術で製造しようとすると、加工時に発生する応力によって「反り」や「ねじれ」が生じたり、断面に「バリ」が発生したりするリスクが著しく高まります。これらのμm単位の形状不良は、コネクタの嵌合性や接触信頼性に致命的な影響を及ぼすため、決して許容されません。したがって、コネクタの小型化を実現するためには、極薄・微細形状であっても高い寸法精度を維持できる、極めて高度な精密プレス加工技術が不可欠となります。
高速伝送の品質を左右する、ミクロン単位の寸法精度
高速伝送に対応するコネクタにおいて、コンタクトは伝送線路そのものです。安定したインピーダンスを維持するためには、コンタクトの断面形状、表面の平滑性、隣接するコンタクトとの間隔といった物理的な寸法が、製品全体にわたって極めて均一に保たれなければなりません。しかし、プレス加工の特性上、金型の摩耗や材料のわずかな特性ばらつきによって、μm単位の寸法変動が生じることは避けられません。この微細な寸法のばらつきが、インピーダンスの不整合を引き起こし、信号の反射やクロストークといったノイズの原因となります。安定した高速伝送性能を持つコネクタを量産するためには、μm単位での一貫した寸法精度を保証する加工技術と、それを測定・管理できる高度な品質保証体制が求められるのです。
高信頼性を担保する、端子の強度とバネ性の両立
フローティングコネクタのコンタクトには、二律背反ともいえる特性が要求されます。一つは、基板への実装時やコネクタ嵌合時に変形しないための「強度」と「剛性」。特に、基板のスルホールに圧入されるプレスフィット部などは、高い保持力が不可欠です。もう一つは、相手側のコンタクトに安定した接触圧をかけ続け、かつフローティングの動きに柔軟に追従するための「しなやかさ」と「バネ性」。これらは接触信頼性の根幹をなす要素です。しかし、一般的な金属材料では、強度を高める(硬くする)とバネ性が失われ(脆くなる)、バネ性を重視すると強度が不足するというトレードオフの関係にあります。この「強度とバネ性の両立」という極めて困難な課題を、一つの微細な部品の中で実現することこそ、高性能・高信頼性なフローティングコネクタ開発における、部品加工レベルでの最大の障壁の一つと言えます。
ナカトガワ技研が実現する、高性能コネクタを支える超精密加工技術
前述した数々の困難な技術的課題に対し、私たち株式会社ナカトガワ技研は、長年にわたり蓄積してきた独自の金型技術と超精密プレス加工技術、そしてお客様の課題に深く寄り添う提案力で、具体的な解決策をご提供します。コネクタメーカー様が理想とする製品開発を、部品加工のプロフェッショナルという立場から強力にサポートする、弊社のコア技術をご紹介します。
【金型技術】強度とバネ性。相反する要求を両立する「順送プレス加工」
コネクタ端子(コンタクト)に求められる「強度」と「バネ性」という二律背反の課題。この難題に対し、ナカトガワ技研は順送プレス加工に工夫を加えるために、順送プレス金型の段階から独自技術で応えます。例えば、基板への固定に必要なプレスフィット部や嵌合時の変形を防ぎたい箇所等は潰し加工によって強化しつつ、一方で、柔軟な動きや安定した接触圧が求められる接点部や可動部は、材料本来のバネ性を維持したまま成形します。この一連の加工を、順送プレス金型という単一の金型内で完結させるため、品質の安定化はもちろん、コストとリードタイムの大幅な削減にも貢献します。これにより、コネクタ設計者はコンタクトの強度とバネ性のトレードオフに悩むことなく、各部位の要求機能を最大限に高める、より高度で自由な設計が可能となります。
【プレス加工技術】μ単位の精度が、コンタトの品質とバネ性を安定させる
小型化・狭ピッチ化が進むコネクタにおいて、コンタクトの品質はμm単位の寸法精度に左右されます。ナカトガワ技研では、精密順送プレス加工機と、それを最大限に活用するための生産環境、そして何より熟練作業者の高度なノウハウを組み合わせることで、板厚50μmといった極薄材料であっても、反りやバリを極限まで抑制した高精度な量産を実現します。このμm単位で制御された加工精度は、コンタクト一つひとつのバネ性を均一化させ、フローティング機能のスムーズで安定した動作を保証します。さらに、高速伝送コネクタにおいては、この寸法安定性がインピーダンスのばらつきを最小限に抑え、信号品質の劣化を防ぎます。
【提案力】コネクタの仕様から逆算した、最適な部品加工方法の提案
ナカトガワ技研は、単に図面通りに部品を製造するだけのサプライヤーではありません。お客様であるコネクタメーカー様にとって、開発の上流段階から参画できる「技術パートナー」でありたいと考えています。お客様が求めるコネクタの性能、形状、品質、コスト目標といった仕様を深く理解し、その実現のために最適な工法の提案を行います。コネクタ開発の初期段階から順送プレス加工と金型製造のプロの視点が入ることで、後工程での設計変更といったリスクを未然に防ぎ、開発リードタイムの短縮とトータルコストの削減に大きく貢献いたします。
当社の試作順送プレス金型の3つの特徴
当社が製造する試作順送プレス金型には、大きく3つの特徴でまとめられます。

量産精度
当社の試作順送プレス金型では、特に順送レイアウトにこだわった設計をしております。そのため、±0.01程の量産順送プレス金型と同等の精度で試作サンプル品の製品精度を出すことができます。
>>試作から量産まで、0.03~1mmの薄板プレス加工に対応いたします。
短納期/低コスト
薄板プレス加工センターでは、試作順送プレス金型において標準化システムを採用しております。こちらの標準ダイセットは、当社独自の特許も取得しており、他社では真似できない短納期と低コストで試作順送プレス金型を提供することができます。
標準ダイセットと当社独自の工程集約パーツ加工を組み合わせることで実現しています。
生産性
当社の試作順送プレス金型は、準量産対応をすることができます。具体的には、300万pinまでのつなぎ量産対応をすることができます。
試作順送プレス金型の製造における2つのポイント
特に当社の試作順送プレス金型のポイントになっている、標準ダイセットと工程集約パーツに関して説明いたします。
標準ダイセットシステム
上写真のように、当社の試作順送プレス金型では、共通ユニットとサブユニット(赤枠)を分割しております。お客様の製品の大きさやピッチ、材幅によってサブユニットの大きさを数種類の中より選択し、サブユニットのみを製作する構造をとっております。またタイプ種類については、レイアウト長毎に7種類を用意して、柔軟な対応ができるようにしております。
工程集約パーツ
例として、量産順送用のレイアウトで工程では7工程となっていた薄板プレス加工品を、工程集約をした抜きパンチを製造することにより、6工程を削減して1工程で済むようにした事例がございます。このように、製作する部品数が大幅に削減し、さらに通常は7回の抜き加工で製造していた製品を1回の抜き加工で加工できるようになるため、どこにも負けない短納期と低コストでの金型提供を実現しております。
>>【技術提案】工程集約パーツによるスリット抜き加工でコストダウン
薄板プレス加工センターの薄板プレス加工の特徴
薄板プレス加工センターを運営する株式会社ナカトガワ技研は、宮城県石巻市で順送プレス金型の製造をつづけて35年、「知る人ぞ知る」東北最大手の試作順送金型メーカーです。
当社による薄板プレス加工・順送金型の特徴は、主に下記の通りです。
様々な薄板プレス製品の加工実績
薄板プレス加工センターを運営する株式会社ナカトガワ技研では、これまでに様々な薄板プレス加工を行ってまいりました。業界としては、電子機器業界から自動車、産業機器向けに、国内外問わず様々な場所で当社製の薄板プレス加工品が使用されています。
板厚は0.05mmまでの薄いコンタクトの製造実績もございます。またピッチに関しても、0.35mmといったマイクロピッチコンタクトも多数製造実績がございます。
形状に関しては、単純な抜き形状から、先端部分を曲げ加工したR接点形状や、芯金が入らないバネ構造、高精度曲げ加工によるBOX・シェル形状のような、様々な形状の薄板プレス加工品を製造してまいりました。
>>はんだ接続からプレスフィット端子に変更して製品への熱影響削減!
>>高耐熱コネクタとは?高耐熱コネクタに求められる機能とプレス加工技術について解説!
幅広い薄板プレス加工への対応力
上記のような様々な製品の薄板プレス加工に対応するには、薄板プレス加工のノウハウが求められます。特に順送金型を用いた量産前試作から量産段階での薄板プレス加工では、大量生産を前提とした中で、品質とコストのバランスを取った薄板プレス加工の技術が必要となります。詳細は下記をご覧ください。
>>リン青銅のC5210とは?プレス加工のポイントについても解説!
>>順送プレス加工品をバラバラの個片にするメリットと方法について
>>0.05mm以下の極薄板プレス加工をするための方法とは?
>>連続端子におけるキャンバーとツイストとは?対策方法を解説!
薄板プレス加工のトラブル解決力
順送金型による薄板プレス加工では、バリや反り、カス上がり、打痕などのプレス加工特有の問題も多く発生します。しかし当社では、量産前試作段階での品質・機能確認のための薄板プレス加工品を数多く製作してきた実績をもとに、薄板プレス加工におけるトラブル解決力を磨いてきました。詳細は下記をご覧ください。
>>カス上がりの原因と対策とは?薄板プレス加工におけるカス上がりについて解説!
お客様から選ばれ続けるサービス対応力と安心感
当社では、ロット1万~300万の薄板部品の試作プレス加工から、試作順送金型、量産順送金型まで一貫生産を行っております。特に試作順送プレス金型に関しては、多くのお客様から好評のお声をいただいております。
こちらの動画では、薄板プレス加工センターの順送プレス加工をスケルトンをもとにご紹介しております。
薄板プレス加工センターのコネクタ 製品事例
続いて、薄板プレス加工センターによる製品事例をご紹介いたします。
試作プレスフィット端子
こちらは自動車業界で使用されるC7025-TM03製のプレスフィット端子です。板厚は0.64mm、ピッチは2.2mmで、試作順送金型にて製造いたしました。
プレスフィット端子は、穴部分の抜き加工が最も難易度が高くなります。こちらのプレスフィット端子についても、板厚0.64mmに対して、幅0.3mmの薄肉へ行う抜き加工で、プレスフィット部の断面対角寸法公差は±0.03mm、さらにプレスフィット部のスリット抜きについては0.5t以下という、高難易度の薄板プレス加工品でした。
C5240R-XSH製 FPCコネクタ端子
こちらは、電子部品として使用される、リン青銅(C5240R-XSH)製のFPCコネクタ端子です。板厚は0.08mm、ピッチは0.9mmで、試作順送金型にて製造いたしました。
FPCコネクタ用端子部品は、当社でも多数の取り扱い実績がございますが、今回は最小公差±0.007という高精度なプレス加工品でした。またお客様からは、とにかくコストを抑えてほしいとのことで、ご要望にあわせるために金型をコンパクトにして対応いたしました。
C5210RHQ-XSH製 曲げR付き圧着端子
こちらは、リン青銅(C5210RHQ-XSH)製の圧着端子です。板厚は0.15mm、ピッチは5mmで、量産順送金型にて製造いたしました。
このリン青銅は、非常に硬い材料として知られており、クラックが起きやすい点がお客様としても課題認識されていました。しかし当社では、曲げ工程に工夫を凝らすことで、クラックの発生を防ぐことに成功いたしました。
また曲げR部分は板厚の1/2である0.075mmとなり、非常に精度も求められる難易度の高いプレス加工品でした。
車載向け2段丸め加工コネクタ用端子部品
こちらは、銅合金(MZC1R-H)製の車載用コネクタ部品です。板厚は0.35mm、ピッチは16.5mmで、量産順送金型にて製造いたしました。
写真の通り2段で行った丸め加工です。丸め公差は±0.025mmで、同軸精度は0.05mmという高精度プレス加工品です。
3回折り返し曲げコネクタ用端子
こちらは、車載用部品として使用される、リン青銅(C5210R)製の3回折り返し曲げコネクタ用端子です。
3回の折り返し曲げ加工を順送プレス加工にて行っています。この寸法公差が±0.1mmとなり、さらに上面と底面の平行度が0.05、対称度も0.16という高精度なコネクタ用端子部品です。
コルソン合金製 Box曲げ試作コネクタ端子
こちらの端子は、U曲げ部からバネ形状があり、その先にBOX形状が繋がっている複雑形状製品です。
薄板プレス加工センターは独自の試作順送プレス金型用の標準ベースを、多彩なバリエーションで取り揃えています。そのため、加工ステージ数が40程必要な製品であっても、他社よりも低コストでの製作が可能です。
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薄板プレス加工センターを運営する株式会社ナカトガワ技研は、宮城県石巻市で順送プレス金型の製造をつづけて35年、「知る人ぞ知る」東北最大手の試作順送金型メーカーです。
当社では、金型製造やプレス加工に必要な設備が全て整った設備体制により、金型の設計製造から検査、プレス加工まで一貫して行うことができます。
またナカトガワ技研の加工技術は、米粒ほどの大きさにも加工することができるのは当たり前。そのような高精度加工を安定的に行う当社の技術力こそが、高精度金型部品加工を実現するためのポイントです。
さらに当社では、累計3,000型の順送金型の製作実績があり、今までの試作品をスケルトンとして全てサンプル保存しております。この蓄積されたサンプルにより構築された当社のアイデア力で、お客様のご要望に応えて様々な金型形状を生み出します。
ナカトガワ技研では、板厚0.03~1.0mmの薄板順送プレス加工を得意としております。特に試作~中量産用の試作金型の設計・製造に強みがある当社は、試作・中量産のプレス加工にも対応しております。この領域のプレス加工では、当社は負けない自信があります。
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